シャフルスドゥラキース大陸南東部。
熱砂の吹き荒れる街、バライソの境にあるゲートのところに、一人の男が立っていた。
『チェック完了。バウンティ(賞金首)は見当たらない』
ぼそりと男がつぶやき、ゲートをくぐる。
熱砂が一瞬、やんだ。
目の前に道が見える。すぐまた熱砂が吹き始めると、あっという間に視界が遮られてしまった。
熱砂で視界が遮られても、男は困らない。
男の眼には、いろんな機能があり、モードを切り替えることでいつでも可視状態にできるからだ。
『クリア・ビジョン・モード』
右のこめかみあたりを人差し指でなぞると、男の目に映る世界は、晴れた日のようにすっきりした。まるで熱砂など存在しないかのようだ。
もちろん、そう見えているのはこの男だけで、バライソの街の熱砂はずっと吹いている。
男の体格はかなり大きく、身長は2メートル近い。そんなに太ってはおらず、どちらかというと筋肉質で締まっているほうだろう。
ただ、マントを羽織っているので、実のところの体格ははっきりとは分からない。
何が理由なのかはアングレイ自身にもわからないのだが、彼にはある時期以前の記憶がない。
ある時期、というのは、彼が賞金稼ぎとして名を馳せるようになる前、のことなのだが。
それこそ彼自身の記憶がはっきりしないため、彼は自分が何者なのか、どうしてこの仕事をしているのか、など、様々なことを探りつつ賞金首を追いかけ、そしてその賞金を稼いでいるのである。
また、今の彼は『バイオボーグ』と呼ばれる『機械化人間』である。
彼が探っていることの一つに、どうして、いつ、この体になったのか、ということも含まれている。
アングレイの賞金首を追いかける行為は、『自分探し』と、等しい行為なのである。
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