序章 2

 シャフルスドゥラキース大陸南東部。
 熱砂の吹き荒れる街、バライソの境にあるゲートのところに、一人の男が立っていた。

『チェック完了。バウンティ(賞金首)は見当たらない』
 ぼそりと男がつぶやき、ゲートをくぐる。
 熱砂が一瞬、やんだ。
 目の前に道が見える。すぐまた熱砂が吹き始めると、あっという間に視界が遮られてしまった。

 熱砂で視界が遮られても、男は困らない。
 男の眼には、いろんな機能があり、モードを切り替えることでいつでも可視状態にできるからだ。
『クリア・ビジョン・モード』
 右のこめかみあたりを人差し指でなぞると、男の目に映る世界は、晴れた日のようにすっきりした。まるで熱砂など存在しないかのようだ。
 もちろん、そう見えているのはこの男だけで、バライソの街の熱砂はずっと吹いている。
 男の体格はかなり大きく、身長は2メートル近い。そんなに太ってはおらず、どちらかというと筋肉質で締まっているほうだろう。
 ただ、マントを羽織っているので、実のところの体格ははっきりとは分からない。

 何が理由なのかはアングレイ自身にもわからないのだが、彼にはある時期以前の記憶がない。
 ある時期、というのは、彼が賞金稼ぎとして名を馳せるようになる前、のことなのだが。
 それこそ彼自身の記憶がはっきりしないため、彼は自分が何者なのか、どうしてこの仕事をしているのか、など、様々なことを探りつつ賞金首を追いかけ、そしてその賞金を稼いでいるのである。
 また、今の彼は『バイオボーグ』と呼ばれる『機械化人間』である。
 彼が探っていることの一つに、どうして、いつ、この体になったのか、ということも含まれている。
 アングレイの賞金首を追いかける行為は、『自分探し』と、等しい行為なのである。

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