第一章 続・モウエンの淡い恋

 相変わらず、それからもモウエンは彼女と親しくしていた。
 彼女の名前は、マーシュ・ブロベリー。
 いわゆる『忍び』と言われる集団の中で生まれたらしく、子供のころに、この帝都に送り込まれていた。
 みなし子で、帝都にある子育てのための施設で育てられたことになってはいるが、実はこの子育て施設も、『忍び』のものが作り上げた施設だったりするのだ。
 マーシュはその施設で大きくなり、その施設の周りにいる一般の人々から、様々な情報を得ていた。
 あるとき、帝王の血縁であるダルカスの名前を知り、さらにその側近であるモウエンの存在を知る。
 そして、ダルカスの情報を得るために、彼女はモウエンに近づくことにするのである。
 が、都の人々に聞いていた話の通り、モウエンの人柄は素晴らしいものであった。
 彼と直接何度も言葉を交わし、その人柄に触れることで、結果としてマーシュはモウエンに心酔してしまうのである。
 人間としてのモウエンに興味を抱き、周りの人々からもいろいろなことを聞き出す。
 結果として、ダルカスの情報源と思って近づいたモウエンに、彼女は恋をしてしまうのである。
 自分の立場と、なすべき任務を思い出し、悩むマーシュ。
 思い切って、施設の長に正直にすべてを話し、相談するが、その思いは打ち砕かれてしまう。
 自分が情報を得なければならないその対象人物に恋心を抱くとは何事だ、と。
 もし万が一にも、その相手に深入りするようなことがあれば、逆にお前を始末しなければならなくなるから、そのことだけは覚えておけ、と。
 それからしばらくの間、マーシュはモウエンのもとに姿を見せなくなった。
 このことをいぶかしく思ったモウエンは、ダルカスに事実を告げ、対応策を練っていた。

 しばらくののち、モウエンの前にマーシュが姿を現した。
 モウエンは、マーシュを一目見て、彼女の異変に気付いた。明らかに素振りがおかしかったからだ。
 それに気づいたように、モウエンはマーシュに近づくと、こう告げた。
「俺を殺すか、そうでなければ、今すぐにこの都から出てゆけ。」
 殺すなんて、と言いかけるマーシュの口に慌てて手のひらを押し当て、マーシュにだけ聞こえるような小さな声で説明した。
「めったなことは口にするな。多分、今のお前には見張りがついているはずだから。」
 と。そして、モウエンは周りを気にしながら、ダルカスが書いた小さなメモをマーシュに見せた。

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