続・痴漢電車 5・愛

 結局、『やる』という選択肢しかないゲームをやらされることになってしまった。
 男はあたしの頭をとんとんと撫でたあと何か思いついたみたいで、耳元でこう言ってきた。
「ゲーム内容変えてやるよ。『1分間まばたき禁止』。これなら、余裕だろ?」
 は、いきなり変更?
 余裕って、何言ってんの……。でもまあ、1分間なら なんとか我慢できるか……。
 最初は男の言葉の意味が分からなかったけれど、1分ならなんとかなりそうと思ったので、 黙ってうなずいた。
 それを見て、男はスマホを操作してタイマーの画面を出した。1分に設定されている。それがあたしに見えるように角度を調整し、スマホスタンドにのせた。
「はい、スタート。スマホ、じっと見てろ。愛。」
 男に言われた通り、スマホの画面をじっと見つめている。言われなくったって、他に見るところがないんだし、画面に出ている数字に合わせて、心の中 でカウントダウンしていた。
そうこうしているうちに、タイマーが0になり、通知音がひびいた。それから何秒かして、あたしはホッとして目をつむった。
「1分はクリアかぁ……。」
 心なしか、男の言い方がつまらなそうに聞こえたが、そんなコトより写メよ、写メ。
 約束を忘れたとか言われると困るので、急いで男に言う。
「写メ、消してっ……。」
 男は不満そうに小さく舌打ちする。何よ 、そっちが無理やりゲームさせたんでしょ。あんたが負けたんだから文句言わないで消してよ……。
 スマホの画面にさっきの写が表示されている。
「これで、削除するからな? 見とけよ?」
 どうやら約束通り、写メは消してくれたみたい。
 あ、動画もあったっけ……。と思っていると、男がこう言ってきた。
「さっきは1分だったからな。次は3分で勝負、どうだ?」
 えっ? まだ続くの? でも動画……。
 どうだ、と言われても、またやるしかないんじゃないの? まぁ、さっきの勝負、思ったより楽勝だったしなぁ。いいか、のってあげても。
 そう思ってあたしが頷くと、男がこう言った。
「よしよし、そうこなくっちゃな。じゃ、3分勝負だ。今度は3分間、俺の目を見つづけること。目をそらしたら、愛の負けだからな?」
 そう言いながら、男はスマホのタイマーを3分にセットした。
 さっきと違って、目線を動かせないから、タイ ーの残りが確認できない。そこはちょっと不安がないワケじゃないけど、さっきと同じようにしてたら勝てるよね、多分。
 あ、あたしが勝ったら、動画、消してくれるんだよね? と男に聞くと、
「これで愛が勝ったら、動画も消す。もしも愛が負けたら、プロジェクターに大写しにして、店で動画の上映会やるからよ?」
「へっ……? 上映会……? なっ、何をバカなっ……。」
 さっきの写メが削除されてホッとしたのもつかの間、 あたしが負けたら動画の上映会だって。冗談じゃない。 
 裸で自己紹介してるのなんて見られたらたまったもんじゃないし……。ふざけるのもいい加減にしてよね。と思って男を見たら、目だけ笑ってない。え、もしかして、本気で言ってんの? じゃ、負けるワケにいかないよね。
 あたしの目つきが変わったのを見て、男が言った。
「負けなきゃいいだろ、愛? さっきみたいにあっさり勝てるかもしんねーだろ? じゃ、始めるぞ?」
 男はスマホの画面をタップする。タイマーが動き出す。
 3分間。何か仕掛けてくるかもしれないけど負けるワケにいかない。
 あたしはじっと男の顔を睨みつけていた。
  誰に指示されても目をそらすつもりなんてない。あんな動画の上映会なんて、されてたまるもんですか。
 1分間、まばたきしないで目を開けているっていうのが、自分で思っている以上にあっさりクリアできたのでちょっとビックリだった。
 この3分間、目をそらさないっていうのも、簡単というのか何なのか……。
 憧れの人とかなら、見るなと言われても逆に見つづけていたくなるけど、この男から目をそらさないっていうのはキツいなぁ……。
 よく考えたら、あたしこの男にバージン奪われて、その上、中出しまでされてるんだし。なんでそんな男をずっと見てなきゃならないんだか……。ゲームじゃなかったらやらないよ、本当……。
 タイプでもないし……。何してんだ、あたし。でも、こんなにじろじろ男の人の顔見ことないんだよな。見てるとなんか怒られそうで……。
 そんなコトを考えていると、3分間はあっという間だった。タイマーが鳴ったのだ。
「おォ、すげえな、愛。3分勝負も愛の勝ちか。」

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