続・痴漢電車　６

　愛の気合いが勝ったのか、結局、タイマーが鳴るまでずっと俺の目を睨んでいた。
（いいぞ、そうこなくっちゃな。）
さっきと　同じように、愛に見せるようにして、画面に動画を表示する。
「よし、約束だからな。愛が勝ったし、この動画、消してやるよ。」
　そう言って画面をタップし、動画を削除した。ホッとした表情の愛の頭を撫でながら、今度はこう言った。
「写真も動画も消した。愛が２連勝したからな？　でも何か、俺も悔しいからリベンジしたいんだよなぁ。５分勝負やらないか？」
　あえて、愛が２連勝したということを強調してから、５分勝負をもちかけた。 愛のことだから警戒はするだろうが、思ったよりあっさり連勝できたことに気をよくしてのってくると踏んでのことだ。
　暫くの無言ののち、愛は頷いた。
連勝した勢いで勝てると思ったのだろう。 勝負の中身を詳しく聞く前にうけてしまうのが愛の良いところでもあり、悪いところでもある。 愛の頷きを見て、俺は喜んで愛の頭をとんとんした。
「さすが、連勝してるから違ェよな？　あっ、そーそー、俺のリベンジチャンス、ってことで、ちょっとだけ、ハンデ、つけてくれよなァ？」
　俺の言葉を聞いた愛は、一瞬、しまったという顔をした。あと出しジャンケンをくらったようなものなのだから。まぁ、気の強い（だろう）愛が、今さら嫌だとかダメだとかは言わないだろうと読んでのことだが。
　予想通り、愛はそのつけ足しを却下しなかった。
「５分間勝負に、愛が勝ったら、今、手につけてる手錠と、両足のガムテープを外してやるよ。あ、ハンデもつけてもらったんだし、身体につけてるものも全部外してやるよ。」
　その言葉を聞いて、愛の表情が変わった。だが、その少しあとで、真面目な顔で愛がこう聞いてきた。
「もし、あたしが負けたら……？」
　これを確認してくるとは、まだまだ冷静な証拠か。
「あ~、負けたら？　ハンデつけられて、ヤバいと思った？」
　ニヤッと笑って俺がそう言うと、愛は睨みながら言い返してくる。
「ヤバいとか思わないけど……。でも、念のため、にっ……。」
「愛が負けたらなぁ……。てか、俺が勝ったらかぁ……。」
　腕組みをして、考えるふりをしながらこう言った。
「愛が勝ったら手足の拘束外して、おもちゃも 外して、まぁ解放するってことなんだし、それなら俺が勝った時はその逆でよくね？」
「え……。逆？」
「そう、逆。解放されないってコトな？」
　俺のその一言を聞いた愛の顔から血の気がひいた。
「うそ……。それ本気？」
　青い顔の愛に、俺は笑顔でうなずいた。
「そんなビビんなって。１分も３分も余裕で勝ったんだから、５分も勝てるって。だから、俺ハンデくれって頼み込んだんだろ？」
　わざとおどけた口調でそう言うと、一瞬愛の表情がゆるんだがすぐ戻った。それを見て、俺は追いうちをかけるように言う。
「てか、今さらやらないとか言わないよな？　勝ち逃げなんてズリーぞ、愛？」
　そこまで言うと、愛は黙り込み、うなずいた。 まぁ、５分勝負も負けはしないと思ったんだろう。 ありがとな、愛。