痴漢電車 2・愛

 あたしの名前は道浦愛みちうらあい。今年の春から大学生。やっとのことで家を出てひとり暮らしをすることになったのはいいんだけど、大学の近くはさすがに家賃が高くて、電車でちょっと離れたところから通う羽目になっちゃった。
 最近お気に入りのグループを見つけて、彼らの音楽をダウンロードしてはまとめていつもスマホで聴いている。普通にワイヤレスのイヤホンで聞けばいいんだろうけど、結構ベースの音とか、バスドラの音が気に入っているので、ついついヘッドホンをしちゃう。
 今日も学校の帰り。時刻表を見るまでもなく、電車に乗る。
 さすがに天気のいい日だったので、ブラウスとスカートにしておいた。そうでなきゃ、汗だくになっちゃう。
 電車に乗った瞬間、何かいつもと違うような変な感じがしたんだけど、深く気にすることもなく、窓際に立って音楽に聞き入っていた。
 ヘッドホンから聞こえる音楽に集中しすぎていて、まさか後ろに人が来ているなんて思いもしなかった。
 変な違和感がお尻にあった。
 まさかとは思ったけど、確実に触りに来ている。
 人が音楽を楽しんでいるのに、やな感じ。
 大声を出すのもみっともないと思ってしまって、無言のまま手でそれを払いのけようとしてみた。
 驚いたことにそれをものともせず、相手はスカートの中にまで手を差し込んできた。うちももをなで、挙句の果てにショーツの上から大事なところを触り始めたのだ。
 これ以上はまずい。
 こんな電車の中だ、知った人がいないとも限らない。
 あわててその手を何度も追い払おうとした。
 すると、相手があたしの手をつかんだ。
 つかまれた手を振り払う暇もないまま、あっという間に背中で手を交差させられ、何かやわらかいもので両手を固定されてしまったのだ。
 (やば……。こんなことされたら、抵抗できないじゃない……。)
 ヘッドホンからはいつもの音楽が流れ続けている。こんなことをしてタダで済むはずがない。周りを見回して、誰か助けてくれそうな人を探してみる。
 自分の視界の範囲内では、男性しかいない。そして、誰も助けてくれそうな感じはない。
 (まずい、まずい……。)
 本気で焦り始めていると、後ろの男はあたしが肩からかけているトートバッグの中をごそごそやり始めた。
 ちらっと見えたのは、男があたしのスマホを手にした瞬間だった。
 (ちょっ……。なにすんの、それはっ……。)
 焦ってもぞもぞ体を動かしている間も、男はショーツの上から何度も大事なところをこすってきていた。
 (まじでやめてって……。)
 そんな風に思って、相手を睨みつけようと思っていたら、いきなり後ろからアイマスクをつけられてしまった。
 目の前が真っ暗になる。何も見えない。
 視覚を奪われるってこんなにやばい感じなんだ、そんな風に思った。
 「んぅ……。」
 つい、声を出してしまった。
 それが合図になったわけではないだろうが、スマホからの音楽が止まった。
 (え、嘘……。何するの?)
 『おとなしく言うことを聞いていれば、痛い目には合わないから』
 低い声がヘッドホンから流れ込んでくる。
 後の男の声だろう。スマホを奪われ、あたしのスマホを操作して、自分の声を聴かせているに違いない。
 今度こそ誰か助けてくれないだろうかと、アイマスクをされた状態がわかるように周りをきょろよろしてみたが、状況は変わらない。
 焦っているあたしをあざ笑うかのように、後ろの男は後ろから抱きついてきて、ブラウスのボタンを上から外し始めた。
 (ちょっ……。)

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