愛 調教編 1・愛

 急激な刺激を全身に浴びて、どうやら気を失ってしまったみたい。
 何がどうなったのかすら覚えていないくらいの衝撃だったから……。
 頭の中のもやみたいなものが少しずつ晴れてきた時に、タバコの煙の匂いがした。あたし、タバコあんまり好きじゃないからすぐ分かる。
 つい、そのタバコの煙を吸いこんでしまって、むせてしまった。
 タバコの煙、嫌い……。大きく息を吐いて首を横に何度か振る。それで意識がはっきりして、目を開いた。
 気を失う前に同じポーズのままだ。何も変わってない。ちょっと意外だった。じっと男を見ていると、タバコを灰皿に押しつぶして消していた。まぁ、あたしが煙でむせたからとかじゃなくて、単に吸いおわっただけのことだろうけど。
男はぐっと近づいてきて、あたしにスマホの画面を見せてきた。
「見ろ、愛。残り時間は2分52秒。スタート してから2分8秒だったってワケ。おつかれさんなー?」
 嫌味ったらしい言い方が気に入らない。
 それにしても、本当に2分しか経ってなかったんだ。悔やしい気持ちをかみ殺して、あたしはじっと男の顔を睨みつけた。
「この勝負は俺の勝ち。愛は『解放されない』から、してもらうぜ?」
 あたしが睨んでいるのをちっとも気にしていないような口調で男がそう宣言してきた。
 それでやっと気がついたんだけど、今は全部のスイッチが切れてる。だから普通にしゃべれるのか。そのことが分かって、あたしはホッとしたんだけど、逆に言うと男の言葉がすごい重大なことを言ってると思って、口をパクパクさせてしまった。
「か、覚悟って……。何……。どういう事?」
 それを聞くと、男は鼻をこすって、なんかあたしをちょっとバカにしたように笑っていた。
「聞いちゃう、それ? まぁ別に俺はいいけど。」
「くっ……。本当に、解放してもらえないの?」
「勝負に勝ったのは俺だからなァ?」
 完全に勝ち誇った言い方をする男をあたしはずっと睨みつけていた。
 ホントに腹が立つ……。
 ただ、男が何を考えているか分からないので、それだけがちょっと怖かった。
(何考えてるんだ、この人……。)
 そう思っていると、男はあたしのあごに手をかけて、少し顔を上に向けた。そのまま、ギリギリの所まで顔を近付けてくると、こう言ってきた。
「どうしても解放してほしいって言うなら、さっきより厳しいけど、もう一回、ゲームしてやろうか?」
「また、ゲーム?」
 何回するのよ……。っていうか、してやろうか、って何様目線でものを言ってんのよ、全く……。
 男の口の利き方に、ちょっと不服そうな顔をしていたとは思うが、それに対しては何も言わず、男は言葉を続けた。
「そうだ、ゲーム。一番簡単だろ?」
 そう言ったあと、男は大きくため息をついてからさらにこう言った。
「第一お前、さっきの5分勝負で床をびしょびにしてるんだ。それでもまだ、イカされたいのか?」
(なっ……。)
 何を言い出すのかと思ったらそんなコト……。恥ずかしく思っていることをワザと言ってくるなんて、ホント、嫌なタイプ。
 とは言うものの、改めて言われると恥ずかしいことにかわりはなく、あたしの顔は赤くなっていたと思う。
 イカされる……。よく分からないけど、何かさっきみたいに無理やりにでも気持ちよくされるってことだよね……。あんなの、もうやだ……。
「もういや……。イキたくない……です……。」
 絞り出すような声で、なんとかそう答えると、男は笑いながらあたしの頭を撫でてきた。
 え、どーゆうコト?
「そう言うと思ったよ、愛。だから次は、愛が『イキたいです。イカセてください』って言ったら、俺の勝ち。な?」
 え、え? 何言ってるの? マジでどーゆうコト? あたしはもうイキたくないって今でも言ってるのに、あたしからイカセてくださいと言うとかありえなくない? 本当、訳分かんない……。
 男の言葉の真意がよみ取れず、ポカンとしていたら、またこんなコトを言われた。
「イキたくないって言ってる愛のコトだから、自分から『イカせて下さい』って言うなんて、ありえなくない?  だったら、60分耐久でも問題ないよな?」
 ありえないゲームを1時間もこんな男とやるなんてムリ……。どうしたらいいんだろう。
「60分……。1時間も…ムリっ……。」
 思わずそう言ってしまうと、すぐ男がかぶせてきた。
「へェ。なら、30分ならやれるの?」
「15分かせめて、20分にして……。」
 30分でもしんどい。せめて、20分くらいじゃないと長すぎてそれだけで耐えられなくなってしまう。
 少しだけ考えて、そう答えると。男がこう言った。
「んー。じゃ、15分にしようか。15分の間に、愛が「イカせてください』って言っちゃったら、俺の勝ち。言わずに(15分間)耐え切ったら無事、解放、と。」
 その言葉を聞いても、どこか信用しきれない感じがしたので、もう一度聞いた。
「本当に解放してよね?」
「もちろん。耐えきれたらな? ただ……。」
なにそれ。まだ何かあるの?
「ただ、何?」
「俺は、愛にその言葉を言わせないと負けになるんだから、どんな手を使っても言わせようとするぞ?」
 今さらそんなコトを言う? またダマされちゃったの?
「えっ、嘘、そんな……。」
 慌てて、じたばたするけれども、椅子の拘束はそのままだから逃げられるワケはない。
 男が今度はあたしの両肩を押さえつけて、 動けないようにしてしまった。
「俺だって、勝ちたいからな?」
まんまとひっかかってしまったかな……。



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